粗視化(Coarse-grained, CG)モデルは、分子動力学(Molecular Dynamics, MD)シミュレーションにおいて、全原子(All-atom, AA)シミュレーションでは到達できない大規模系や長時間スケールを扱うために広く利用されています。しかし、CG モデルは解像度が低いため、多くの構造解析には原子レベルの詳細が必要となり、大きな制約となります。CG 表現から AA 構造を再構築する手法はバックマッピング(backmapping)と呼ばれ、マルチスケールシミュレーションのワークフローにおいて重要なステップです。従来のバックマッピング手法は幾何学的規則やフラグメントライブラリに依存しており、大規模かつ不均一なシステムに適用するとしばしば破綻します。
この課題に対処するために、我々は CGBack を開発しました [1]。CGBack は Denoising Diffusion Probabilistic Models(DDPMs) と 等変グラフニューラルネットワーク(Equivariant GNNs)に基づくバックマッピングの枠組みです。ルールベースの手法とは異なり、CGBack はバックマッピングを生成的な問題として捉えます。すなわち、CG入力に対してランダムな初期座標を反復的にデノイズすることで、複数の物理的に妥当な AA 構造を生成します。その後、リファインメントパイプラインによって立体障害(steric clash)、環貫通、キラリティの誤りといった構造的アーティファクトを修正し、化学的に整合した AA 構造を得ます。
CGBack は、単一タンパク質から大規模な生体高分子凝縮体や多鎖アセンブリに至るまでスケーラブルに適用でき、計算時間は系のサイズに対して線形にスケールすることが実証されています。この特性により、巨大なタンパク質複合体や高密度の相分離凝縮体といった大規模系を効率的に再構築する必要がある高性能計算(HPC)環境に適しています。これらの成果は、拡散モデルに基づくバックマッピングが、分子シミュレーションにおける解像度のギャップを埋めるための強力かつスケーラブルな手法であることを示しています。

図: バックマッピングの概要